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山中俊治の「デザインの骨格」 - 亀の井別荘のスーパーノーマル
湯布院に亀の井別荘という旅館があります。今更私がここで何かをいうのもむなしいほど、いろいろな雑誌やブログで絶賛されています。それでもちょっと書きたくなりました。
一言でいうとデザイナー泣かせの旅館です。いわゆる「良くデザインされている」と言えそうなところが見当たらないのです。調度品にも特別な感じはなく、庭の造りも一見無造作。にもかかわらず、空間自体に圧倒的な居心地の良さがある。これはなんか不思議だなと歩き回っているうちに、二つのことに気がつきました。
まず、不愉快な色がどこにもないのです。決してミニマルな空間ではなく、必要なものはなんでも揃っているのですが、調和を壊すような質感や色彩が丁寧に除かれている感じ。
もうひとつは、恐ろしいほどに掃除とメンテナンスが行き届いていること。廊下の明かり取りの桟にすら、ほこりが積もっていないのです。信じがたくて、嫁チェックする姑みたいに、指でいろいろな隅っこをなでてしまいました。
共通して言える事は、美意識などという尊大なものとは無縁の、ただ丁寧に「あく」を取り除く作業があらゆる所に行き届いていることでした。「スーパーノーマル」ってこういうことを言うのかも。
どうせ写真ではこの魅力は伝わらないと思いつつさまよっていたら、裏方の作業場でとても美しい光景に出会いました。ムシロを干しているのでしょうか。こういう日常があの居心地を支えているのですね。
帰りがけに、絵のように凛とした風格の女将に挨拶されて、問うてみました。
「ここは、全体で何人泊まれるのですか。」
「60人の方にお泊りいただけます。」
「ここでは何人の方が働いていらっしゃるのでしょう。」
「そうですねえ。レストランとかも入れると百人ぐらいでしょうか」
一万坪の土地にたった60人の宿泊者、そしてその1.6倍の従業員。スーパーノーマルの秘密の一端に触れたような気がしました。
